シエナの大地の目覚まし
街ではブンブン走りまわる八百屋さんの3輪トラックの音。田舎では小鳥のさえずり。これがシエナの大地の目覚まし時計です。
「バッボ(お父さん)は元気か?」
「大きくなったわね、お宅のチッティーニ(子供)」...
トスカーナ・シエナ方言ののどかな響きが、町角で聞こえます。
古くていいね!
郊外でも町でも、この地では古い家が人気。
昔の農家を10年がかりでこつこつ修復する人がたくさんいます。
「いつの時代の家?」
「そうね、石作りだから11世紀頃の建物ね」
「まあ、古くていいわね!」
こんな会話をよく耳にします。古くていいね--その言葉に、シエナの地に住む人々の美意識が隠されています。
イタリアといえばモダーンな建築や家具を想像しがち。
しかしこの地の人々は一般的に古い家や家具を大切に使います。たとえば、その昔パンを家庭でこねるのに使われていた"マーディア"と呼ばれる棚が、今もパスタやビスケット入れとして大切に使われていたりします。
街角でよく見る骨董家具屋さんや家具修理屋さんは、そうした古いモノを大切に使うこの地の人々に支えられているのです。
お約束は夕方の散歩
ちょっと勇気を出して、お店屋さんに入ってみましょう。たとえばレトロな縄のれんをくぐって入るお肉屋さん。
すると、
「サルシッチャ(味付け挽き肉の腸詰め)を4本くださいな」
「いや、今朝はウサギのいいのが入ったんだ。それにしたほうがいい!」
そんな等身大の日常会話が聞こえてきます。傍らでは順番を待つ間、立ち話に花を咲かせるマンマたち。
いっぽう郊外の家では午前中、ドアの取っ手に重そうな袋が。それはパン屋さんが通った合図です。
パン屋のおじさんは、各家庭の好みのパンをちゃんと知っていて毎朝入れていってくれるのです。こんなのどかな食生活も、ここではまだ活きているのです。
夕方はパッセッジャータといわれる散歩の時間です。クルマを締めだしたメインストリートで、悠々とウィンドーショッピングをしたり、ばったり会った友達としばし会話を楽しむ人々。田舎のバールの木陰では、おじいさんたちがトランプに興じていたり、議論に花を咲かせたり。
イタリアでも大都会では到底叶えることのできない、豊かな時間がそこに流れています。
広場自体が舞台セットのよう
夏のシエナ市街では、ときおり歴史装束に身を固めたコントラーダの若者たちの行進が。彼らのフェスタに合わせて、街中には色とりどりの旗がひらめきます。夏といえば各地で屋外オペラや星空映画会といった楽しみもあります。いずれも食事をしてからゆっくり楽しめるところは、この地の良いところ。ときにライトアップされた中世・ルネッサンスの館をバックに行なわれる屋外オペラは、まさに広場自体が舞台セット感覚です。
ジェラテリアで買ったジェラートを食べながら部屋に戻り、明かりを消してみてください。街なら窓の下から若者たちの歌い声や陽気なおしゃべりが。カントリーサイドなら窓の外には澄んだ夜空に輝く星たちや、遥か向こうに見えるライトアップされた小さな村や古城...
シエナの大地の夜はこうして素朴に、そしてドラマティックに更けてゆきます。
コンサートホールは 13世紀の修道院跡
シエナ市街から30km北東にあるサン・ガルガーノ修道院
Abbazia di San Galgano
は、1200年代に同名の聖人に捧げられたもの。屋根はすでに朽ち落ちて、壁面だけが残る。
キジアーナ音楽院主催による夏の音楽週間でとりわけ独特なムードなのは、その修道院跡で行なわれる星空コンサート。日頃クルマがないと行けないその地だが、当日のみ臨時バスが運行されるのも嬉しい。